富士山がくっきり見えるのは風が強い証拠 |
指さしタイが廃刊!? 改訂版のあとがきに書いた通り、2003,1,15、初釣りは本牧からのスズキ狙いで出船した。「エビスズキ」というのは字のごとく、活きたエビをエサにして釣るからこう呼ばれる。昔ながらの江戸前の漁法だ。 今年初の釣行ということでかなり気合と期待が入っていたのだが、前夜から突然荒れだした大型寒波のせいで当日はものすごい強風が吹きすさぶ。ベイブリッジの風速計はなんと14mを示している。わざわざ高速飛ばして行っても出船中止では悲しいので船宿に電話してみると「船は出ますよ〜」との答え。マジ、この風の中?とも思ったが、船長の言葉を無理やり信じてアクセルを踏み込んだ。 宿に着くと小柄な親父船長がお茶を入れてくれた。 「えーこらすごい風だら〜。きんのはナギでよかったにな〜。でも大丈夫だダイジョウブ。風のカゲをを探るからよ、船は出すでよ」。 長崎屋は周年エビスズキを看板にしている、東京湾でも唯一の老舗の船宿だ。親父船長はよほど海を知り尽くし自信があるのだろう、ガラス戸に貼った大きな魚拓のすき間から嬉しそうに外を覗く。 しかしこちらは嬉しいはずもない。風が吹けば波は立つし底荒れする(海底が荒れること)。したら魚はエサを食べなくなる、釣れない、寒い、つらい、ツイテナイ、新年早々お先真っ暗、オレは何をやってもダメな人間だ、きっと本も売れないに違いない、指さしタイは廃刊の憂き目……と超ネガティブマンになってしまうかもしれない。 ブルブルッ、それじゃアキマセンのだ。物事はいい方いい方に考えんと。 頭を振って気合を入れなおすものの、木枯らしはさらに勢いを増し、かん高い音が横浜の空に響き渡るのであった。 |
| 右手が痛いワケ 8時過ぎ、これでもかってほどブクブクに着込み、防寒ダルマ豚と化し船に乗り込む。と、もう一人ミヨシ(船の先端側)に席を取っているおじさんがいた。よりによってこんな日に釣りに来るなんて。もう一人の物好きに少し救われた気がした。 スピードを落としてゆっくり港を出ると、船はブワーッと横風をくらい倒れそうになる。船長の息子が急いでスパンカを張り船首を風上に向けるも、10数mの猛烈な風が容赦なくオレたちを襲う。港湾工場群の煙突から立ち昇る煙が真横に流れている。ミヨシのおじさんが胴の間(船の真ん中)のぼくに何か言ったが、烈風にかき消されて聞こえない。 この風は、高速を走る車の窓から顔を出した感じ、とでも言おうか。船は港のすぐ近くをヨロヨロと走るばかり。さすがに、波頭が真っ白になっているような沖の方には出て行けないようだ。 10分ほどして「えー、16mです」とマイクの声。風速は16mもあんのかと思って寒さに身を縮めていると、そうじゃない、エビを針に刺し投入せよとの指示だった。すっ飛んできた船長息子に「タナ16mでやってください」と直接言われ初めて我に返った。 「釣りをする」という気持ちがどこかに行ってしまうほど船上はもう異常な状況だったのだ。 慌ててセットしタナを16mに合わせるも、竿が風にあおられてアタリも何もわかりゃしない。 この時点で、ぼくは何もかもすっかりあきらめてしまった。今日はダメだ。釣れるわけがない。手袋を忘れた竿を握る右手が耐え難く痛み始めていたのは、どうやら寒さのせいだけでもなかったようだ。 |
しっとりと脂ののったスズキの身。うまそうでしょ。 |
でかいから捌くのも大変。3匹もありゃ十分。 |
船長ありがとう しょっぱなからヘコミまくっているヘッポコダルマ豚が何気に風上の方に目を向けると、なんとミヨシのおじさんの竿が弓なりに曲がっているではないか。「ほいさ、もうちょいだ〜!」親父船長が大声を張り上げタモを差し出す。無事取り込まれたのは70cmほどの立派なスズキだ。釣ったおじさん以上に喜ぶニコニコ顔の船長はすぐさまぼくのところにやってくると、エサの付け方、ハリスの長さ、アタリのとり方など丁寧に教えてくれる。何が何でもぼくにも釣らせたいという熱意が伝わってくる。魚はいる、おまえも一匹釣れと。 これはもしかしたら…。熱い船長の想いに、自分の中にも何か気力みたいのがみなぎってきた。イケるかもしれん。 何度かタナを取り直していると、突然グイッときた。 うお!あたった!? 引きに合わせ竿を海面まで送ると、グイ、グイーッとさらに強くひったくってくる。 「合わせろ〜!!」いきなり船長が怒鳴る。 竿をおもいきりしゃくり、合わせをくれてやった。 リールのドラグがキューンと鳴り道糸がガーッと出て行く。 「ノッタ〜!」アホな声でこっちも叫んでしまう。 スズキの引きはパワフルだ。ある程度巻き上げても水面間際でガンガン突っ込んでいく。ペナペナのキス竿(BAYGAME T)が手元から折れそうなくらいしなる。 たまらない瞬間だ。 衰えることのない強烈な引きをいなし、なんとかタモ入れして上がったのは50cmほどのフッコ(中型のスズキ)だった。 「いやー、まずはヨカッタのう」 「ありがとうございます」 起死回生の一匹だった。嬉しさがこみ上げてくる。 風のほうは一向に治まることはなかったが、魚の食いが立ってきたのは事実のようだった。その後おじさんが60cm級を1匹追加して、このダルマ豚が60と50cm級を2匹追加した。昼過ぎまでいろいろ探ったがアタリは遠のき、船長が腕で×マークを出した。 「寒いからやめっべや〜」 待ってたのよ、その言葉。とりあえず釣れたし、なにより寒かった。 さて結果、なんとぼくが竿頭になってしまっていた。 客が2人しかいないとはいえ、たった3匹とはいえ、竿頭は竿頭。 いや、しかし。この船長あっての結果だ。 親切に教えてくれて、客に釣らせてあげたいとする船長の熱い気持ちがなかったら、この悪条件の中、きっとボウズだったに違いない。 船長とその息子さんにはホント感謝だ。 でも次回は天気のいい日に行くからネ。 2003・1・19 |
