小心者の所業
あれれ、また長崎屋?
ネットで毎日の釣果を調べていたらこの長崎屋がダントツで好調だったのね。
しかもメバルの釣り場は本牧沖がメインとなるため、ここからだとポイントに着くまでの時間が短くていい。東京湾奥の浦安や葛西からの出船だと、家から近いんだけどここまで1時間以上は船で走んなくちゃなんなくて、結構しんどいし。
船に乗ったらすぐ竿を出せるというのが、長崎屋のたまらない魅力の一つでもあるのだ。
またこの船宿は、同じ東京湾に面してる他のところと比べてずいぶんとノンビリしている。8時出船だからちょい早めにと朝6時半位に着いても、他のお客はだーれも来ていない。7時過ぎになってやっとちらほら顔を出し始めるという具合で。他のとこだったら出船の2時間前には誰かしら来ていて、1時間前なんて船の自席の確保で戦々恐々してるってのに。ここ長崎屋に限っては、2時間前に来るなんてヤツはかなりアセっている腕に自信のない小心者といえるのだった。
ぼくはもちろん6時過ぎ到着の一番乗り。
だって、なんかあって遅れるとヤじゃん、しょーがないじゃん。
船長とラブラブ
今日も相変わらずクソ寒いが、雪が降るという予報もたいしたことないらしい。なにより風がないのが嬉しいじゃないの。
意気揚々と船に乗り込むと、スズキの船には5,6人のお客が乗ってるのに、こっちのエビメバルの方にはガーだけ?あれ?まさか……。
「今日はお客さん一人だけだからよ、どこでも座っていいから」
マジで船長?平日ったって水曜日じゃん。築地とか休みだし、釣り好きの魚屋とか居酒屋の親父とか乗ってこないの?
「はい、これモエビ」と小さな桶を渡されて岸を離れた。
結局誰も乗って来なかった。
でかい船にぼくと船長2人っきり、超ラブラブ。
でなくて。
クハー、ものすごいプレッシャーがのしかかってきた、マジで。
まず、船宿の威信にかかわるから数をあげなきゃいけない。つまりたくさん釣んなきゃいけないのだ。しかもずっとマンツーマンなので、確実に腕を見抜かれる。
正直に言うよ。イソメで釣るメバルはやったことがあっても、モエビで釣るメバルはなんと今日が初めてなんだよね……。
頭だけの釣り
……なので、行くと決めてからは過去の釣り雑誌を読みまくり、頭に叩き込んできた。
まず、エサのモエビは尾羽を切って針を軽く刺す。ズブズブと通し刺しにしちゃいけない。オモリが底に着いたら底から着かず離れずで待つ。誘いの意味でたまーに1m.くらい上げて落とし込む以外は、仕掛けを動かさないほうがいい。アタリがあってもあわてて合わせず、そのまま魚の引くにまかせておく。メバルは完全に向こう合わせの釣りである。一匹かかってもすぐに巻き上げないで、残りのエサに食わせる「追い食い」を待ってみるのも効果的。根掛かり(仕掛けが海底の障害物に引っかかってしまうこと)を恐れず、2mくらいの長い仕掛けを上手に操り、手返しよく効率的に。
フムフム、なるほど。
こんなの楽勝じゃん。
……イメージトレーニングは完璧だ。
グズグズその1
「昨日はやっと最高20くれえいったんだ、常連さんがよ。他は8とか9とかで2ケタいかなかったんだ。お客さんはメバルはやったことあるだ?」
「は、はいまあ一応…(イメージでなら)」
「じゃあ大丈夫だ、うはは」

船長のいる操舵室のまん前に釣り座をとると、まもなく船は港湾工場の岸壁ぎりぎりに着けた。
水はきれいとはいえないが海底もうっすらと見え、いかにも釣れそうなポイントだ。
「はいどーぞー」
買うのに1年悩んだ超おニューのメバル専用竿を振り上げ、仕掛けを投入する。すーっと道糸が出てオモリが底に着く。糸ふけ(糸のたるみ)を取って、オモリを底からちょい上げて、と。
「グイーッ」
竿が大きくしなる。しかし全然動かない。
あ"〜いきなり根掛かっちまった。
道糸を引っぱるとブチッと切れる。オモリをなくした仕掛けを巻き上げ、エサを付け直し、オモリを結んで再投入。…のはずが、足元に置いた仕掛けがぐるぐるにからまって「オマツリ」してしまった。これだから長い仕掛けはもう・・・、かじかむ手でほどいてるとせっかく付けたエサがポロリ。船が揺れて、その辺に置いたオモリがコロコロ。それを拾おうと立ち上がると、モエビの入った桶を蹴飛ばしてしまう。
グズグズその2
ピチピチ跳ね回るエビたちを急いでかき集める。
仕掛けはほどくよりも新品に付け替えたほうが手っ取り早いと思い直し、 市販のを台紙からほどくも、今度はスルスル外れるはずがこの時点で再びオマツリしてしまう。
目を上げると船はしっかりポイントを流している。
しかし焦れば焦るほどこんがらがっていく。
早くせねば、早く…。
客が他にいればいいんだが、なにせ一人っきりなもんだから船長の目が気になってしょうがない。スマートにやってて釣れないならまだしも、ドシロウト丸出しのあたふたぶりではさすがに船長も黙っていなかった。
「なにやってるだ。し、仕掛けなんかもう一本あらかじめ伸ばしといてすぐ付け替えねえと、潮が速えーんだからポイント過ぎちまうよー.」
見かねた船長が操舵室の窓を開けて怒鳴る。
はぁ〜、なにやってんだかオレは。
復活なるか
なんとかまともに釣りを再開させたのは、船が岸壁を外れてしまってからだった。
もう一度の流し替えで仕掛けを投入する。ところが、マニュアル通りオモリをちょい上げたくらいじゃあっという間に根掛かりしてしまう。
「あはは、根がきついだー?」
おい、今度は笑ってるしよ。
こう引っかかってばっかじゃ釣りにならないので、思いきって1mほどタナを上げてみることにした。やはり海底の起伏が激しいのだろう、ときおりオモリが底に当たるが、すぐ巻き上げて根掛かりを防ぐ。
こんな風なことを続けていると、竿先に「クククンッ」ときた。待望のアタリだ。
軟らかいメバル専用竿の曲がるままそぉーっとあおってみると、ググッと魚の引きが伝わってくる。
よしよし。
無事取り込んでなんとか1匹をゲットした。
しかし、「追い食いを待つ」なんてことはすっかり頭から消え去っていたのは言うまでもない。
エビメバルレッスン
その後2匹ほど追加したが、いまいちアタリがなく渋い状況が続いた。10時頃になっていただろうか、横浜や川崎あたりの釣り船もこの岸壁を攻めていたが、我が長崎屋の親父船長は離れて少し沖に行くという。
しばらく走って着いたのは水深30mほどのポイントで、今度はさっきほど根が荒くないという。その通り、オモリが底を引きずっても根掛かりしなかった。
さて、現在たったの3匹しか釣ってない。気合入れてやらねば。

できるだけ活きの良さそうなモエビを付けて底をとる。
たまに竿を大きくあおって誘いも入れてみる。
するとグググッときたきた!
「きたか!追い食い待ってみろ〜」
船長がすかさず声を上げる。
おお、そうだ、追い食いだった。
そぉーっと竿を上げて確実に1匹を掛けると、そのままの体勢で待ってみる。
「魚が暴れるだろ、したら他のエサも動くだ?それがいいんだ。ずーっと上の方にもメバルはいるからよ、タナが上がっても食うだよ」
なるほど、ベタ底じゃなくてもいいらしい。
超人の技
1分ほども待っただろうか、「船長食わないよ」とあきらめたその時、さらにギュンギュンと竿が曲がった。
「ほらきただー!」
ほ、ほんとだ。船長のせいにしてごめんなさい。
竿が満月に曲がって最高に気持ちいい。上げると3本針に2匹付いていた。
ここで上手な魚の取り込み方も教わった。仕掛けを竿先ギリギリまで巻き上げてオモリを座席の後ろに落とす。魚を外したらすぐその針にエサを付けてしまう。長い仕掛けをたるませると朝みたいにオマツリしてしまう…。
「反応は真っ赤だぞー!今のうちにどんどん釣っちまえよー」
魚群探知機にはメバルの群れがびっしり映っているらしい。
ようし!朝のグズグズを挽回しなきゃ!
ここからは早かった。入れればアタる。追い食いを待てば2匹3匹と続いて食ってくる。瞬く間に足元のバケツがメバルで溢れてきた。
また驚くことがあった。追い食いをさせる度に船長が竿先だけを見て、掛かっているメバルの数を言い当てるのだ。これには正直、舌を巻いた。
「こりゃ2つだな。」
「おお!これは3っつ付いてるだ」
その確率ほぼ100パー!おみごと!釣ってる本人がいまいちつかめてないのに、どーゆーこと?
14時頃潮が止まり、食いもなくなってきて終了となった。
それでも魚探は相変わらず真っ赤のままだという。メバルという魚が潮にいかに敏感か、ということらしい。
さて!数えてみると34匹。船長が今期最高だ、と顔をほころばせた。
最初から最後まで全部船長に教えてもらった、エビメバル。
ま、結果オーライってことで。
シーズン初めの今が狙い目ですよ〜!
(最後まで読んでくれてありがとう!)
2003・2・5 本牧長崎屋・エビメバルの巻